大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和40年(ネ)19号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す、被控訴人は控訴人らに対し昭和三六年一二月二八日付交換契約を登記原因として原判決添付目録表示の山林につき所有権移転登記手続をせよ、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次のとおり附加するほか原判決事実摘示のとおりであるので、これを引用する。

一  控訴代理人において次のとおり述べた。

(一)  本件交換契約の当事者は、控訴人ら主張の主位的請求原因においては控訴人らと被控訴人との間においてなされたものであり、予備的請求原因においては控訴人らと被控訴人の代理人である訴外馬渡広二との間においてなされたものである。

(二)  仮りに、控訴人らの民法第一〇九条による表見代理の主張が認められないとしても、被控訴人は同法第一一〇条の表見代理により本件交換契約履行の責任がある。すなわち、被控訴人は訴外馬渡広二に対し名宛白地の売渡証その他一件書類を交付している。そして、右事実からすれば、被控訴人は右馬渡に対し本件山林の売買ならびにこれに随伴する所有権移転登記手続に関する権限を与えていたものというべきであるところ、控訴人らは山林取引の慣行と馬渡の言を信じて被控訴人と本件交換契約を締結したものであつて、右経緯からすれば、控訴人らにおいて右馬渡に右契約締結につき代理権があると信ずべき正当の理由を有しているというべく、当然民法第一一〇条の表見代理の適用がある。

二  被控訴代理人において次のとおり述べた。

民法第一一〇条所定の表見代理は、本来何らかの代理権がある者がその権限をこえてなした行為につき適用されるべきものであるところ、本件においては被控訴人は訴外馬渡を訴外山中の代理人として右山中に対し不動産売却の代理権を与えたに止まるのであつて、馬渡の控訴人らに対する行為は全くの無権代理であるから第一一〇条の適用の余地はない。

三  証拠関係(省略)

理由

当裁判所の判断によつても控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと考える。

その理由は次のとおり附加するほか原判決理由にしるすところと同一であるのでこれを引用する。

一  原判決五枚目裏四行目ないし七行目に掲記の証拠のうえに当審証人山中哲夫、同荒武国義、同馬渡広二および当審における被控訴本人尋問の結果を加える。

二  原判決六枚目裏一〇、一一行目に掲記の証拠のうえに当審証人山中哲夫の証言の一部を加える。

三  原判決七枚目表三、四行目に「同証人の証言全体及び」とあるのを「同証人の右証言全体および当審における証言ならびに」に改める。

四  原判決一〇枚目表六行目、同裏四行目にある「被告本人尋問の結果(第一、二回)」の次に「当審における被控訴本人尋問の結果」を加える。

五  控訴人らは当審において民法第一一〇条による表見代理を主張し、その基本代理権として、被控訴人が訴外馬渡広二に対し本件各書類を交付している事実からして本件山林の売買ならびにこれに随伴する所有権移転登記手続に関する権限を与えていたものというべきであるというけれども、前記引用にかかる原判決認定のとおり馬渡は山中の代理人として被控訴人との間の本件契約の衝に当つたものであることが明らかであり、したがつて、被控訴人としては右書類を山中の代理人としての馬渡を介して山中に交付したものであるとみるべきであるから、右馬渡に控訴人ら主張のような基本代理権の生ずる余地はもとよりない。そして、他に右馬渡が基本代理権を有していた事実について認定するに足る証拠がないから、その余の判断をするまでもなく控訴人らの右主張は採用の限りでない。

よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条によりこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例